懐古瞑想 番外1
実は「懐古瞑想」にはいくつか番外編的な話がありました。結局は一つも書かなかったけど、ネタとしてご丁寧にも取っておきました(笑)放置するのも勿体ないので、ここで紹介していこうかなーとか。どれもこれも走り書き程度なので、話の一部分として捉えて下さいませ。
番外1はルックの好きなお茶について。本編中、幾度もセラが入れてあげているあのお茶でございますよ。
「お嬢ちゃん!」
声をかけられ、セラはびくりと肩をこわばらせた。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。セラのことじゃないかもしれない。だいじょうぶ…
そんなことを考えながら周囲を見渡すが、どこを探しても「お嬢ちゃん」に該当する人物は自分以外に見当たらなかった。
おそるおそる振り返ると、大きな紙袋を抱えた声の主と思われる初老の男が、やあ、と手を挙げて近寄ってきた。
「――紅茶屋さん!」
その男にセラは見覚えがあった。それはセラが緊張せずに会話をすることができる数少ない人物で、旧ハイランドの王都近くに店を構える小さなお茶屋の店主だった。かつてはブライト王家にも献上していたという茶葉も置いているその店は、今となっては知る人ぞ知る隠れた名店だった。表向きはただの交易の場として使われている店で、茶葉を買い求めにくる客はどこぞで仕入れた噂を頼りにしたとか、少し歩いた先にある大通りまで香ってくる独特な高貴な茶葉の香りに惹かれたれたとか、そういう者たちが主だった。
セラがその店を知ったのは偶然だった。ルックの仕事についてきたはいいが、さすがに依頼人の所までは一緒に行くことはできないとなったとき、時間を潰すために入ったのがその店だったのだ。
しかし、一見して人形のような容姿をしているセラは一瞬で好奇の目にさらされ、特に交易を目当てとしている荒っぽい客からは寒気のするような視線を受けることになってしまった。ただでさえ人見知りの激しいセラが青い顔をして動けなくなってしまったのを見かねて、店主が奥の茶室に通したのだった。
以来、セラはその店の常連となっている。
「どうしたお嬢ちゃん、今日は寄っていかないのかい?」
男が声をかけてきたのは、その店から少し離れた路地。セラは、はい、と肩を竦ませた。
「ここいらは治安が悪いわけじゃないが、お嬢ちゃんみたいな子が一人で歩くには、ちと危険だなあ」
「今日のセラはおむかえなのです」
にこりと笑ったセラに、男も「そうかい、偉いねぇ」と目を細める。
「あのかたは、紅茶屋さんのお茶が大好きなのです。今日もかえったら入れてさしあげるんです」
「それは嬉しいねぇ。 おお、そうだ」
男は抱えていた紙袋の中から、決して大きくはない瓶を取り出した。そしてその中身を手早く交易用の小さな袋に入れると、首を傾げるセラの方へ差し出した。
「お嬢ちゃんに特別分けてあげよう」
男はふふふ、と悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「これはなんですか?」
「今度お茶を入れるとき、こいつを茶葉に混ぜるといい。 不思議なお茶が出来上がるよ」
「ふしぎなお茶…?」
きょとんと見上げるセラに男は大きく頷いた。
「そうさ。 砂糖を入れなくても、とっても甘くなるんだ」
>> DATE :: 2005/03/29 Tue