白の優しさ(BLEACH)
藍染編の最終話でやっぱり死神になってからもギンは乱菊に優しかったんだ!と嬉しくなりました。雪の中で優しさを感じるとか最高すぎる。流魂街での別れが雪の日だったから尚更。
ギンはこうして乱菊が困ってるときやピンチの時に駆けつけてくれれば良いと思います。今後もな。←まだ生存を諦めてない
店を出ると、はぁ、と溜息が出た。それは白くてふわふわと立ち上り、すぐに消えた。
ついてない。全くもってついてない。確かに今日は冷えると思っていたけれど、まさか雪が降るとは思っていなかった。
十番隊の飲み会は隊長が子供ということもあり、最後まで残って場を締めるのは副隊長である乱菊の役目だった。本人もそれを嫌がることはまず無く、むしろ最後まで酒が飲めると喜ぶのが常なのだが、こうして雪など降られてしまえば少なからず落胆もする。当然傘など持ち合わせていない。
隊長はいつ帰ったのか覚えていないくらい前に帰った。他の隊員たちもすでに全員店を出ている。それを確認したのは乱菊本人に他ならないのだから間違いない。また溜息が出た。
(よし、仕方ない。急いで帰るか)
雨ではないのだし、急ぎ足ならばそんなに濡れることもないだろう。ここからなら自宅より隊舎の方が近いし、今日はそっちに泊まるしかないなと足を踏み出した時だった。声をかけられたのは。
「十番隊副隊長さん、今帰り?」
確かめずとも分かるその声、いつも瀞霊廷で感じるものより微かに柔らかい霊圧。乱菊は一瞬だけ息をつめ、完璧な笑みを作って声の主に振り返った。
「お疲れさまです、市丸隊長」
「今日は十番隊の宴会やったんか」
「はい。先日の任務が少し厳しいものでしたので、その慰労会を」
「相変わらず十番隊長さんはおらんのやね」
「序盤まではいらっしゃったんですよ」
他愛のない会話をする。近くに死神はいないようだが、ここは人の往来がある通りだ。迂闊な言葉を吐き出すわけにもいかないし、ましてや隊長相手に同等の口をきくなど出来るわけがない。乱菊は数十年経っても慣れぬギンに対する敬語に内心苦笑した。
ふと、ギンが自身のさしていた傘を乱菊の頭上へ傾けた。
「市丸隊長?」
「ボクもちょうど用があんねん。途中まで送っていくわ」
雪かて結構濡れるで、と気遣わしげに言う。もちろんそれは乱菊にしか感じられない程度ではあるが、それが乱菊にはとても嬉しいことだった。
「隊舎泊りを覚悟していたところだったのですが」
「あんな寒いとこ、あかん。ちゃんと帰ってあったまらんと風邪ひくで」
「……そうですね。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
そうして傘の下に入ると、ギンが微かに笑ったようだった。
自然な足取りで乱菊の自宅の方へ向かう。言葉は特になく、ただそこにある二人の空気は数十年前は当たり前のようにあった、温かく懐かしいものだった。普段は感じることができなくても、それは決して忘れられたわけでも捨てられたわけでもない。上手く隠されているだけで、普遍的にギンの中に存在していることを乱菊は知っている。
人の気配もなく、互いの霊圧しか感じられなくなった頃、先に口を開いたのはギンの方だった。
「乱菊、寒うない?」
二人だけのときはちゃんと名前で呼んでくれる。この尸魂界において乱菊を呼び捨てで呼ぶのはギンただ一人なのだ。名前に意味も価値も見出せないが、けれどギンが呼んでくれるから、乱菊は自分の名前が好きだった。
「雪が降ってるのよ。寒いに決まってるじゃない」
「そう言うと思ったわ」
くすくすと笑いあう。その笑いの中でごく自然に手を取られた。きゅ、と握り締められると伝わるギンの体温がとても心地良い。
「ボクの手でも無いよりナンボかマシやろ」
「あら、三番隊の隊長ともあろう方がずいぶんと殊勝なことを仰いますね」
悪戯っぽく笑うと、ギンもその細い目を更に細くしてにぃと笑った。
「嫌やったら振りほどいてもええんよ」
そんなことをするはずがない。できるはずがない。ギンもそれを知っているのだ。
だから返事をする代わりにぎゅっと握り返して、寄り添うようにギンの方へ身体を寄せた。
「……ギン」
「何やろ」
「あったかいわ」
「酔ってるん?雪、まだ降ってるで」
「でもあったかい」
ね、と見上げると、そうやねえとのんびりした口調が返ってきた。そのギンの表情はおそらくこの世界で乱菊しか見ることができない。瀞霊廷では絶対に見られないことを誇らしく思い、同時に寂しさを感じることを隠して乱菊は静かに笑う。
つられたのかギンも笑ったようだが、その心情を計ることはできない。けれど傘を持って現れたのは決して偶然などではないだろうから、その優しさを思うだけでもう満足だった。用があるなどと白々しい理由もただ純粋に嬉しい。
乱菊は少しでも長くその表情を見ていたくて、家路への歩調を少しだけ緩めた。
>> DATE :: 2010/11/17 Wed