緑の意味(ティアクライス)
幻水ティアクライスよりリウ×レン・リイン、線刻継承後ノスロウの樹海にて。
リウはレン・リインとの再会を本当に諦めていたと思います。その逆もまた然り。だからこそこの二人がまた一緒にいられるのはすごく幸せなことなんだよなーと思ってみたり。
「そういう運命でした」はそれなんて協会?ってことになるからティアクライスでは禁句ですよねw
リウは空を仰いだ。といってもそこにあるのは枝を伸ばした木々ばかりで、今が昼間であることを示す陽の光はその間から差すだけの微々たるもの。先ほどまでいた集落に比べれば明るいものの、青空の下であびる光とは比べようもない。
スクライブがいれば人間を惑わすための術に効果はない、とルオ・タウの説明する声が聞こえる。他にもクレインとクロデキルドがいくつか質問をしているようだ、と気づいたところで、リウは隣を歩く少女に目を移した。
(またこうして会える日が来るなんて――…)
三年前にこの道を通ったときは一人きりだった。もう二度と通ることはないだろうと思いながら、一度も振り返らず前だけを見て進んだ。スクライブ達は集落から出ることをしないから樹海に入ってしまえば追手はない、そんな安堵感と開放感は少しだけで、胸の中はすでに樹海の外への好奇心でいっぱいだった。不安がないわけではなかったが、それはこの樹海に差す陽の光と同じで、まったくの微々たるものだったのだ。
けれど本当にそうだったのだろうか、とふと思う。三年前この道を歩きながら、幾度となくポケットの中から取り出して祈るように握り締めた緑の石。それは捨てることができず、今もなお持ち続けている。シトロ村で出会った大切な友人たちにすらそれを見せずにいるのは、自分でも良く理解できていないその感情のせいだ。
後悔ではない、と断言できる。では一体何なのだろうか。
「レン・リイン」
声をかけるとはっとした表情でリウを見た。一瞬の後、目元を緩めて何かと問うてくる彼女は、リウの記憶の中の少女ではもうなかった。かつて同じ高さだった目線は今や肩の辺りまでしかなく、すべらかな肌には同胞と同じく線刻が施してある。――三年、だ。
けれどその瞳だけはまったく変わらず、まるで包み込むような優しさがそこには在る。リウは知らずポケットに手を入れて、指に当たったその感触を確かめた。
「――レン・リイン、怖い?集落から出るの初めてだろ」
「ええ、確かに初めてだけれど……でも怖くはないわ」
「ほんとかー?」
「本当よ。あなたがいるんだもの、怖いわけないわ」
なんつー殺し文句を…とぼやくのは心の中だけにして、しかし実際そんなに外の世界に怯えている様子もないので安心した。
そういえば、彼女もまだあの石を持っているのだろうか。なくしていても、捨てていてもそれはそれで構わないと思う。三年前の別れの日、彼女はこの地に残ると決め、自分は二度とこの地へ戻るらないと決めた。もう生涯会うこともなかったはずの二人が、石をどうするかなどもうどうでも良い話だ。
しかし、自分がそれを祈るように握り締めたときと同じ想いが彼女にもあったらいいのに、と勝手なことを考えてしまう自分がいる。この三年間でそんなことを考えたのは一度もなかったのに、なぜ今になって。
「リウ・シエン?」
急に黙ったからだろうか、レン・リインが不思議そうに見上げてくる。きょとんと開いた瞳は確かに三年前より大人びているのに、何も変わっていないように思える。それが嬉しくて、リウは思わずレン・リインの頭に軽く手を置いた。
「いやさー、怖くなくても不安くらいはあんだろ?だから少しでも外のこと教えておこーと思ったんだけど、何から話そーかなーって」
にやっと笑って誤魔化す。
レン・リインは頭の上に置かれた手とリウの顔を交互に見て、くすぐったそうに肩をすくめた。そして瞳が幸せそうに緩んで。
「あなたのお話ならなんだって」
「またそーいうこと言う……」
「あら、本心だもの。リウ・シエンが見てきた世界を私も知りたいと思う。あなたは笑った顔とか温かい手とか全然変わらないから、伸びた背や少しだけ低くなった声の他に何を得たのか、ゆっくりでいいから知っていきたいの」
かつて祈るように握り締めた緑の石。
今もまた知らず握り締めている緑の石。
彼女の瞳と同じ色というだけの条件が、今も昔もリウにその不思議な感情をもたらす。
後悔でも不安でもないそれが、思慕と呼ばれる感情であることにリウが気づくのはもう間もなくのこと。
>> DATE :: 2009/01/28 Wed