ネ タ 蝶 



サードランナー!(おお振り)

WEB拍手を置いていたときのお礼SS。
三橋が笑ってくれた日は、みんなそれぞれ記念日になってるといい。
水谷が不幸なのは私の趣味です。愛ゆえのイジワルです。
阿部は卒業するまで記念日がこないこと希望。(大丈夫かバッテリー!)
花井を書けなかったことが唯一の心残りです。
「みんな聞いてくれ!」 
 練習終了後、嬉々として駆け寄ってきたのは巣山だった。いつもは冷静な巣山がこんなに感激した様子を見せるのは、あまりのマズさに今となっては伝説になっているプロテインを飲まずに済んだとき以来かもしれない。部室などと高級なものがない西浦高校野球部では着替えを適当なところ――主にベンチの周り――で済ませることが多いが、今日も同じ場所でノロノロと雑談しながら着替えていたメンバーはその手を止めて、巣山の次の言葉を待った。 
 走ってきたせいだけではない息切れを整え、巣山は輝くような笑顔で叫んだ。 
「オレも三橋に笑ってもらえた!」 
 その瞬間、一斉におおーっと歓声があがった。拍手をする者までいる。 
「そうか、今日は巣山がランナー役だったもんなぁっ」 
「よかったね!」 
 バシバシと肩を叩きながら喜んでくれる沖と西広に「ありがとお、ありがとお!」と巣山の感動もひとしおだ。 
「ずりぃよ巣山! オレまだなのに〜!」 
「うっそ、お前まだなの? 遅っ」 
「…泉、それきっついから」 
 本気で羨ましがる水谷に泉の冷めたツッコミが入る。もちろんフォローは栄口だ。よかったなぁ、あれ結構感動するよな、いやオレまだなんだってば〜などと大騒ぎのメンバーと一緒に喜びながら、栄口はそっと後ろを振り返った。 
 三橋はまだマウンドに立っていた。投球練習の仕上げをするはずだったが、「いっぺんオレにも打たせてくれよー!」とバッターボックスに入る田島を「三橋の邪魔すんな!」と阿部が追い出しにかかっているので、それはもう少し後になりそうだ。田島を連れ出す係の花井が、あいにく監督と打ち合わせ中だから。 
 栄口は阿部の怒鳴り声で反射的にビクッと全身を震わせた三橋を見て苦笑した。そしてすぐに誰もいない三塁を見てガッカリしたように息を吐き出す三橋を見て、やっぱり苦笑した。 
(――オレらの秘密兵器、サードランナー。 影響力は絶大だな) 
 
 西浦の野球部では特殊なメントレをしている。常に勝てるイメージを持つとかそんな類のものではない。簡単に言えば、ピンチやチャンスの場面にいかにリラックスした自分を作ることができるかというものだ。西浦ではサードランナーを見ることによってリラックスできるように身体を反射づける、といったトレーニングをしている。最初は瞑想から入るメントレだったが、最近では実戦に活用できるように実際にランナーを置きながら練習しているのだ。 
 しかしこのトレーニング、なかなか三橋が上手くいかない。ツーアウト三塁の場面を作って練習に入るのだが、三橋はバッターボックスに入っても三塁を見ない。否、見ることには見るが、サードランナーと目が合うと怯えてすぐに目をそらしてしまうのだ。逆に三橋がランナー役を務めるときも、絶対に目を合わせてくれなかった。三橋の性格からいえば仕方のないことだが、交代で務めることになっているランナーにしてもバッターにしてもそれは視線をそらされた方は結構ショックだ。 
 とはいえ、努力や回数を重ねれば三橋も慣れてきて、最近ではようやく目が合うようにはなったのだ。挙動不審な様子は相変わらずだが、メントレ効果はそれなりに出てきているらしい。しかしそれを笑顔で、となると別問題だった。目をそらされることなくとも、笑いかけるとビクッと全身を震わせる。良かれと思ってしているメンバーにとって、これはまた物凄くショックなことだった。 
 だからといって誰も三橋を責めたりはしない。むしろ「オレこそが笑わせてみせる!」と意気込む始末だ。そこまでチームメイトに大切されて幸せなことこの上ない三橋だが、当の本人はそんなことになっているとは露知らず、日々笑いかけてくれるメンバーにキョドりつつ、なんとか笑顔を返してくれるようになったのは、ほんのここ数日になってからのことだった。 
 
「――ってことは、残ってるのは阿部と水谷だけか」 
 ポツリと呟いた泉に、全員が一斉に息を飲む。「うそっ!」と青くなる水谷は決して三橋に嫌われているわけではないのだが、運が悪いというか要領が悪いというか、とにかくサードランナーにしてもバッターにしても三橋と組む機会が非常に少なかっただけなのだ。 
「そんな〜、相手が阿部だったら完全にオレの負けじゃん」 
 がくりと肩を落とす水谷を、「別に勝負事じゃないから大丈夫だよ」と西広が慰める。ちなみに西広は二番目に笑いかけてもらったメンバーだったりする。一番は天然同士で気を使わないのか田島、三番は同じクラスという事実が安心させるのか泉、わりと面倒を見ているはずの栄口は意外にも四番目で、キャプテンの花井は五番目だった。水谷と同じく組み合わせが悪くてなかなか三橋と組めないでいた沖はつい昨日クリアしたばかりで、今日はやっと巣山が成功した。 
「うーわーなんか焦ってくるよオレー!」 
 半泣きになっている水谷をなだめながら、栄口はもう一度マウンドを振り返った。そしていまだ騒ぎが収まらない三人を見て、やっぱり苦笑をこぼす。 
「大丈夫だよ、水谷。 阿部はまだまだ無理っぽい」 
「なんでだよー? あいつらバッテリーだろー?」 
「…あいつら、見てみ」 
 栄口は、くい、と指だけでマウンドを指した。みんなも一斉にその指の先を見る。 
 
「三橋はお前の相手をしてる余裕はないんだって! 打ち足りないなら花井か沖に頼め!」 
「だってあいつらのキャッチはオレだもん」 
「じゃあ明日監督に頼んでメニューに入れてもらえばいいだろ!」 
「やだ! オレは今ゲンミツに打ちたいの」 
「意味わかんねェ! ほら三橋、お前も何とか言ってやれ!」 
「え…あ、えと…う……」 
「〜〜〜〜っ! お前もいちいちキョドんな!」 
「阿部が怒鳴るからだぞー」 
「誰のせいだ!」 
 
 必要以上に響く阿部の声は、三橋を怯えさせることは間違いないと確信させるほどキレたものだった。 
「…うん、オレ阿部には負けないと思う」 
 どことなくほっとした声の水谷の声を肩で受け、栄口は(そーゆー問題なのかなー、コレは)などと思ったがあえて口には出さなかった。代わりに泉が 
「バッテリーがあんなんなのは、ある意味問題な気もするけど」 
と呟いてくれたが、それは聞かないことにした。 
 

>> DATE :: 2005/12/19 Mon


天然は手に負えない。(NO.6)

WEB拍手を置いていたときのお礼SS。
ネズミと紫苑はいつもこんな会話にならない会話をしていること希望。
かっこいいネズミは非常に好きですが、それ以上に天然パワーでネズミを振り回す紫苑に愛です。
「なんでかな」 
 突然背中に疑問の言葉が投げかけられたが、ネズミは振り返りはしなかった。紫苑は本を読んでいたはずだし、それなら物語の中に納得のいかない展開でもあったのだろう。 
「なんでかな」 
 まったく同じ言葉を聞いて、一体何に疑問を持ってるんだコイツは、とネズミは思った。しかし天然のおぼっちゃんの考えることは人の思考の斜め上をいってくれるのだから――認めたくはないが、こういうところは絶対に勝てない――あえて突っ込まない方が得策だ。しかし、 
「ねえ、なんでかな」 
 さすがに三度目ともなるともしかしてオレに話しかけてんのか、と思うのは当然のことで。ネズミはやっと紫苑の方へ顔を向けた。 
 紫苑は先ほど見たときと同じように、ハムレットを従えて本を読んでいる姿勢のままだった。なんだやっぱり本の中身かよと毒づくと、紫苑は「だから、なんでなのネズミ?」と顔をあげた。 
「なんでって、それはオレのセリフだ。あんたの言葉に主語はないのか」 
「主語?あるよ?」 
 きょとんとした目を見て肩から力が抜ける感じがしたネズミは嫌味も甚だしく溜息をついた。 
「じゃあ聞くが、オレになんでって聞くのはなんでだ?」 
「だってネズミのことを聞いてるんだもん」 
「だったらそれを最初に言えっての。本を読みながら言われても、こっちはわからない」 
「そうなの?」 
 ダメだ。だから天然は手に負えない。ネズミは会話にならない会話にイライラしつつ、最近はようやくその感覚にも慣れてきたので、もう一度溜息をついただけで我慢することができた。 
「――まあいい。 で、何が『なんで』なんだ」 
 どことなく威圧的に言ってしまったが、どうせ紫苑にはそんなものは通用しない。現にチィチィと鳴くハムレットの頭を撫でながら「だってお前も気になるよなー?」などと話しかけている。こいつに流れている時間は他の人間とは絶対に違う。ここが西ブロックだからとか、そんな次元じゃない。こいつの時間はNO.6でも異常だったはずだ。ネズミはそう確信しながら紫苑の答えを辛抱強く待った。 
「あのね、なんでネズミとイヌカシは仲が悪いのかなって」 
 そんな答えが返ってきたのは、彼がハムレットを充分に撫でてあげてからのことだった。あまりにもどうでも良い内容に、ネズミは何と言えばいいのかわからない。 
「昨日も、その前も喧嘩してただろう? イヌカシ、泣いてたよ」 
「あいつが泣くのは得意技だ」 
「でも可哀相だよ。 ねえ、なんできみたちは仲が悪いの?」 
 紫苑は天然だ。いや、この場合は無知と言った方が良いのか。このおぼっちゃんも西ブロックの生活にはだいぶ慣れてきたと思っていたが、その実、頭の中身はさっぱり変わらない。西ブロックの人間が誰かと馴れ合うことはありえない。ゆえに、仲が良くなることもありえない。 
「――ほんっと、いつまでもおぼっちゃんだな」 
 嘲笑うと、さすがの紫苑もそれはむっとしたようだった。「どうして」と言いながら眉を寄せる。 
「いい加減学習しな。あんたにもわかるように言葉を選んで説明してやるが、オレはイヌカシがどうなろうと知ったこっちゃない。そして、あいつはオレが嫌いだ。ここでの人付き合いってのはそういうもんだ」 
 わかったか、と念を押す。ネズミの言うことは西ブロックでは常識で、おそらく紫苑が同じ質問をイヌカシにしたとしても、そっくり同じ答えが返ってくるのだろう。 
 しかし、紫苑の思考回路はやはりネズミの考えの斜め上を行ってくれるもので。 
「じゃあ、イヌカシがきみを好きになってくれたら、きみもイヌカシを好きになってくれる?」 
「はあ?」 
 なに言ってんだあんた、と目で訴えても、それは紫苑には届かない。 
「やっぱり僕は二人に仲良くしてもらいたいよ。せっかく一緒にいる機会も多くなってるんだし」 
「――紫苑、あんたは本を読みながらそんなくだらないこと考えてたのか?」 
 そう、確かに紫苑は本を読んでいたはずなのだ。それがなんだって話がこんな方向へ飛ぶのか。 
「本を読みながらって言うより、読んでいる最中に急に思い出しただけなんだけどね」 
 紫苑は綺麗な白髪をさらりと揺らしながらにっこり笑った。悪意の欠片もないこの笑顔は、ネズミにとっては最強の毒だ。そしてそれに冒されてしまうと、自分で自分をコントロールするのが難しくなってしまう。 
 だから、思わず聞いてしまったのだ。どうせろくでもない答えに決まってる。決まっているのに、この口が勝手に… 
 
「…なんでだ?」 
 
 聞いた後で自分にがっかりしたネズミだが、紫苑の答えを聞いてさらにがっかりした。 
 ほら、やっぱりろくでもない答えなんだ。 
 ちくしょう。この天然のあまちゃんめ…! 
  
「だって僕は、きみもイヌカシも大好きなんだもの」 

>> DATE :: 2005/12/19 Mon


― 再 会 ―(ラプソ)

WEB拍手を置いていたときのお礼SS。
うちの4主は小間使いの仕事が趣味ですから!!!!
うちの海賊コンビはいつまでもセナちゃんを「様」付けします。
うちのキリルは基本的にとても良い子です。優等生です。基本的に。
「なんだ…新しい仲間ってこの二人?」 
 セナがあまりにも肩を落とすので、知り合いなのかと訊いてみようかとキリルは思った。しかしキカとセナがかつての仲間なのだから、この二人も仲間であってもおかしくないだろうと当たりをつけて、改めて二人を紹介することにした。 
「えっとハーヴェイさんとシグルドさん…だけど、もしかしなくても知り合いかな?」 
 げんなりしたセナの表情を見れば、答えは一目瞭然だった。 
「おいおい、久しぶりに会ったってのにその態度はなんなんだよ」 
「だって新しい仲間が入るっていうから気合入れて夕飯作ったのに、全然新顔じゃないじゃん…俺の気合返して」 
「んな無茶な……っていうか、あんたまだ炊事やってんのか!」 
 キリルにとってもこの二人とは三年ぶりの再会となるわけだが、やはりセナとも久しぶりに会うのだろう。憎まれ口を叩きながらも、ハーヴェイは嬉しそうにセナの肩を叩いている。 
「――やっぱり二人ともセナと知り合いだったんだ」 
「群島開放戦争には、キカ様と一緒に俺たちも参加してましたからね」 
 にこやかに答えてくれたのはシグルドだ。初めて会ったときの最悪な印象は欠片もない。だからといって海賊らしいところもどこにもなく、それが一層あれほど犬猿の仲だったハーヴェイと一緒にいることを不思議に思わせる。 
「…セナには当然として、僕には別に敬語を使わなくたっていいんだよ。僕はリーダーっていうわけじゃなくて、ただオベル王の代わりにクールークと群島を行き来してるだけなんだし」 
「あ、俺のことももうセナ様とか呼ばないでいいよ。敬語もいらないから」 
 俺だってもうリーダーじゃないし、とセナは言ったが、シグルドは困ったように首を振った。 
「気にしないで下さい。俺たちはリノ王とキカ様が認めた人間に従うだけなんですから」 
「ちょっと待て!俺たちってことはオレも入ってんのか、それ」 
「当然だろう」 
 盛大に顔をしかめたハーヴェイに、シグルドは何を言っているんだお前はといわんばかりの目を向ける。 
「お前は天然だから順応性があんだよなー…」 
「誰もお前には勝てないさ」 
 褒めてるんだかけなしてるんだからわからない会話を聞き、三年前のこの二人を思い出してキリルはあまりの違いにおかしさがこみ上げてきた。思わず笑いをこぼすと、セナも一緒に笑った。 
「二人とも相変わらずだなー」 
「え、セナが一緒の時からこんな感じなの?」 
「そう。ぜんっぜん変わってない」 
 シグルドは真面目なんだか天然なんだか微妙だし、ハーヴェイはやぱりハーヴェイなんだよな、などと真顔で言う。 
「セナ様こそ変わってないだろ。なんで群島の英雄が夕飯なんて作ってんだ」 
「えっと、本人がどうしてもやるって譲らなくて…っていうか戦争当時もやってたの?」 
 ぎょっとした後ずさったキリルに、セナはふふんと得意げに胸を張った。 
「俺の趣味なんだ。ついでに掃除も、なんだったら薪割りだって完璧にこなすよ」 
「そうか…セナって凄いリーダーだったんだね……」 
「いや、そこは素直に感動するところじゃないですから」 
 シグルドの冷静なツッコミに、セナはなんでだよーと唇を尖らせる。 
 
「ま、なんにせよせっかくこうして再会したんだしさ」 
「うん、そうだね」 
 
 四人はにやりと笑って拳を合わせた。 
 
『また、よろしく!』 
 
 

>> DATE :: 2005/12/19 Mon


見えない時間(ラプソ)

シメオンさんと4主とキリルとオベル王家の話を書くはずだったんですが、うっかりここで挫折しました(シメオンさんがまだちょびっとしか出てないよ・涙)。セナちゃんがオベル王子なのは脳内公式であります。フレアとリノは事実に気づいてないんだけど、血の絆みたいなので繋がれているといいなーと思う今日この頃。
 一体何を食べたらここまで大きくなるのかと感心するしかできないカズラーの大群を相手にし、ようやく最後の一匹を倒したとき、キリルはその会話を聞いた。 
「そろそろ教えてくれたっていいじゃないですかー」 
「ええい、喧しい。無理だと何度言わせる気だ」 
「教えてくれるまで」 
「・・・どこまでも頭の悪い男だのう。無理なものは無理だということすら理解できんとは」 
 ロジェが土下座せんばかりの勢いでシメオンに何やら頼み込んでいた。シメオンは迷惑極まりないといった表情で追い払おうとしているが、ロジェにはまったく通用していないようだ。 
「なーにやってんの、あの二人は」 
 キリルの隣で剣を鞘に収めていたセナも顔を向けた。先ほど「カズラーってどんな方法で調理したら美味しく食べられるだろう」と真顔で呟いて元騎士団仲間を騒然とさせていたが、今は何事もなかったかのように笑っている。 
「ロジェがシメオンさんに頼みごとしてるみたいだよ」 
「・・・・・・ふーん」 
「何を頼んでるんだろうね」 
「さー」 
 自分から何をしているのかと訊いてきたくせに、セナの反応はいまいち薄い。何か機嫌でも悪くなったのだろうかと表情を窺ってみるが、別段変わらない笑顔のままだ。キリルは首を傾げたが、答えは意外な人から降ってきた。 
「セナは知ってるのよ」 
 面白くなさそうな声は、オベルの王女のものだった。 
「ロジェさんがシメオンさんに頼んでること、セナは知ってるの」 
「フレア」 
 珍しく嗜めるような口調のセナに一瞥をくれ、フレアは続けた。 
「シメオンさんって、昔からあの姿だったんでしょう。ロジェさんが子供の頃にはすでに有名な魔法使いだったって聞いたわ」 
「ああ、そういえばメルセトにいたお婆さんもそんなこと言ってたっけ・・・」 
 外見にそぐわない口調を気にさえしなければ、シメオンは若い青年にしか見えない。だから普段はそんなに気にするわけではないのだが、しかし改めて考えるととても不思議な存在だと思えてくる。 
「ロジェさんはその秘密が知りたいんですって。いつまでも若いままでいられる方法を、ね」 
 いつもは穏やかな笑みを浮かべているフレアだが、なぜか今は厳しい表情をしている。それを見てセナは盛大な溜息をついた。 
「フレアが怒ることないのに」 
「怒ってません。でも不謹慎だわ、と思うだけよ」 
「俺は気にしないよ」 
「あなたが気にしなくても、私はするの」 
 放っておけばいつまでも続きそうな言い合いだったが、そこにどんな意味があるのか計りかねたキリルが口をはさんだ。 
「なんでそこでフレアさんが怒るの?それにセナが気にするとかしないとかって、どういう意味?」 
 フレアが口を噤んだのを見て、セナは「自分で言う気がないなら騒がなきゃいいのに」とぶつぶつ文句を言った後、睨むフレアの肩をぽんぽんと叩いて苦笑した。 
「――真の紋章を宿した者は不老になるって話、キリル君は知らないかな」 
「聞いたことはあるけど・・・やっぱり本当なのか」 
「うん、どうやら本当っぽいんだ。で、フレアはそれが面白くないと」 
 いやー参ったねーと本人は笑ったが、フレアは「説明を省略しすぎよ!」と怒鳴った。それでも間違ったことは言ってないとセナが言い張るものだから、しまいには諦めたのか「もう知らないわ」と言い残してさっさと去ってしまった。 
 確かにセナの説明は明確な答えではない。フレアが単に不老を羨ましがっているとも取れるし、深読みすればセナを不老にした真の紋章そのものを良く思っていないとも取れる。キリルはフレアの様子からして、答えはおそらく後者の方なのだろうと思った。 
「――フレアさんは、セナのことが心配なんだね」 
「俺は宿してからそんなに時間経ってないから不老なんて言われても実感ないけど、やっぱり真の紋章ってのは呪われてるからねー。シメオンさんが俺と同じかどうかは知らないけど、フレアにとって真の紋章はちょっとタブーかも」 
 現在の仲間にも群島解放戦争に参加していた人間がたくさんいる。彼らをみればセナがどれだけ好かれていた人物かはわかる。その中でも、オベルの王と王女は特に彼を気にかけているように見える。キリルにはそれが少しだけ不思議だった。 
「心配してくれる人がいるってのはいいよ。それがオベル王家の人たちなんだから、セナも心強いじゃないか」 
 キリルは何気なく言ったつもりだったが、意外なことにセナは目を見開いて彼を見た。ややあってから返ってきた言葉はどことなく寂しそうで。 
「・・・うん。あの人たちはちょっと特別」 
「そうなの?」 
「・・・・・・俺には家族がいないから」 
 苦笑しながら肩をすくめるセナの姿を、キリルは初めて見た。 

>> DATE :: 2005/10/28 Fri


泉の練習(おおきく振りかぶって)

「やべー泉がかっこい〜」というシーンを見てみたいです(笑)っていうかスイッチヒッターって普通にかっこいいと思うんですけどどうだろう。泉ラブ。
 左のバッターボックスで最後の球を三遊間にひっぱった後、泉はふぅと息を吐いた。そしてそのまま右のバッターボックスに立つ。 
「よっしゃ、あと三球!」 
 泉は最初に右打ちの練習をしたあとに、そのまま左打ちのバッティングに入る。西浦で唯一の両打選手であるから、その練習は他のメンバーには興味深く見える。 
「右打ちの直後に左打ちかあ。 泉は器用だよね」 
「オレなら絶対マネできないねー」 
 打席に入っていない者はネットの後ろで素振りをしながら順番を待つ。たまたま泉の次の栄口と、さらにその次の水谷はそんな会話をしながらバットを振っていた。 
「生のスイッチヒッターって見たのオレ泉が初めてだよ。最初見たとき結構びびった」 
「オレは同じシニアにいたなぁ。そんなに上手いひとじゃなかったけど」 
「ためしにオレも両方やってみたんだけどさ、やっぱ難しいよな。全然ダメ」 
「よほど器用じゃなきゃできないよ」 
「ま、オレたちはオレたちなりにできればいいよな?」 
「そゆこと」 
 ひがむこともせず、ただ自分のできることを頑張ればいいということをちゃんと知っている。それは栄口や水谷に限ったことではなく、西浦のメンバーは全員それを理解し、実践しているのだ。 
 ちょうどカキーン!と小気味よい音がして、泉がバッターボックスから出てきた。右打席最後の球をセンターへ流したところで、今日の打撃練習は終了らしい。 
「泉おつかれー」 
「おつかれー」 
 入れ替えで打席に入る栄口に、にこやかに返す。 
「泉は左右どっちが得意とかってないの?」 
「は? 考えたことないけど」 
「そ、そう。そりゃ凄いね」 
 栄口はやっぱり器用だなと思いながら、「泉らしいけどさ」と言った。会話を聞いていた水谷もどうかーんと言いながら苦笑している。しかし当の泉は謙遜でもなんでもなく、さも当然のようにこう言った。 
 
「案外やれちゃうぜ?」 
 
 こいつって、やっぱり田島のがうつってるのかも。 
 栄口と水谷は脱力しつつ、(――自分は自分のできることをしようゲンミツに!)と思いながら、九組には必要以上近寄らないようにしようと堅く誓った。そしてキャッチをしていた田島が「案外やれんなら、オレも両打やってみる!」と嬉しそうに叫んでも、やっぱり二人は聞こえないふりをきめこんだ。

>> DATE :: 2005/09/05 Mon




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