見えない時間(ラプソ)
シメオンさんと4主とキリルとオベル王家の話を書くはずだったんですが、うっかりここで挫折しました(シメオンさんがまだちょびっとしか出てないよ・涙)。セナちゃんがオベル王子なのは脳内公式であります。フレアとリノは事実に気づいてないんだけど、血の絆みたいなので繋がれているといいなーと思う今日この頃。
一体何を食べたらここまで大きくなるのかと感心するしかできないカズラーの大群を相手にし、ようやく最後の一匹を倒したとき、キリルはその会話を聞いた。
「そろそろ教えてくれたっていいじゃないですかー」
「ええい、喧しい。無理だと何度言わせる気だ」
「教えてくれるまで」
「・・・どこまでも頭の悪い男だのう。無理なものは無理だということすら理解できんとは」
ロジェが土下座せんばかりの勢いでシメオンに何やら頼み込んでいた。シメオンは迷惑極まりないといった表情で追い払おうとしているが、ロジェにはまったく通用していないようだ。
「なーにやってんの、あの二人は」
キリルの隣で剣を鞘に収めていたセナも顔を向けた。先ほど「カズラーってどんな方法で調理したら美味しく食べられるだろう」と真顔で呟いて元騎士団仲間を騒然とさせていたが、今は何事もなかったかのように笑っている。
「ロジェがシメオンさんに頼みごとしてるみたいだよ」
「・・・・・・ふーん」
「何を頼んでるんだろうね」
「さー」
自分から何をしているのかと訊いてきたくせに、セナの反応はいまいち薄い。何か機嫌でも悪くなったのだろうかと表情を窺ってみるが、別段変わらない笑顔のままだ。キリルは首を傾げたが、答えは意外な人から降ってきた。
「セナは知ってるのよ」
面白くなさそうな声は、オベルの王女のものだった。
「ロジェさんがシメオンさんに頼んでること、セナは知ってるの」
「フレア」
珍しく嗜めるような口調のセナに一瞥をくれ、フレアは続けた。
「シメオンさんって、昔からあの姿だったんでしょう。ロジェさんが子供の頃にはすでに有名な魔法使いだったって聞いたわ」
「ああ、そういえばメルセトにいたお婆さんもそんなこと言ってたっけ・・・」
外見にそぐわない口調を気にさえしなければ、シメオンは若い青年にしか見えない。だから普段はそんなに気にするわけではないのだが、しかし改めて考えるととても不思議な存在だと思えてくる。
「ロジェさんはその秘密が知りたいんですって。いつまでも若いままでいられる方法を、ね」
いつもは穏やかな笑みを浮かべているフレアだが、なぜか今は厳しい表情をしている。それを見てセナは盛大な溜息をついた。
「フレアが怒ることないのに」
「怒ってません。でも不謹慎だわ、と思うだけよ」
「俺は気にしないよ」
「あなたが気にしなくても、私はするの」
放っておけばいつまでも続きそうな言い合いだったが、そこにどんな意味があるのか計りかねたキリルが口をはさんだ。
「なんでそこでフレアさんが怒るの?それにセナが気にするとかしないとかって、どういう意味?」
フレアが口を噤んだのを見て、セナは「自分で言う気がないなら騒がなきゃいいのに」とぶつぶつ文句を言った後、睨むフレアの肩をぽんぽんと叩いて苦笑した。
「――真の紋章を宿した者は不老になるって話、キリル君は知らないかな」
「聞いたことはあるけど・・・やっぱり本当なのか」
「うん、どうやら本当っぽいんだ。で、フレアはそれが面白くないと」
いやー参ったねーと本人は笑ったが、フレアは「説明を省略しすぎよ!」と怒鳴った。それでも間違ったことは言ってないとセナが言い張るものだから、しまいには諦めたのか「もう知らないわ」と言い残してさっさと去ってしまった。
確かにセナの説明は明確な答えではない。フレアが単に不老を羨ましがっているとも取れるし、深読みすればセナを不老にした真の紋章そのものを良く思っていないとも取れる。キリルはフレアの様子からして、答えはおそらく後者の方なのだろうと思った。
「――フレアさんは、セナのことが心配なんだね」
「俺は宿してからそんなに時間経ってないから不老なんて言われても実感ないけど、やっぱり真の紋章ってのは呪われてるからねー。シメオンさんが俺と同じかどうかは知らないけど、フレアにとって真の紋章はちょっとタブーかも」
現在の仲間にも群島解放戦争に参加していた人間がたくさんいる。彼らをみればセナがどれだけ好かれていた人物かはわかる。その中でも、オベルの王と王女は特に彼を気にかけているように見える。キリルにはそれが少しだけ不思議だった。
「心配してくれる人がいるってのはいいよ。それがオベル王家の人たちなんだから、セナも心強いじゃないか」
キリルは何気なく言ったつもりだったが、意外なことにセナは目を見開いて彼を見た。ややあってから返ってきた言葉はどことなく寂しそうで。
「・・・うん。あの人たちはちょっと特別」
「そうなの?」
「・・・・・・俺には家族がいないから」
苦笑しながら肩をすくめるセナの姿を、キリルは初めて見た。
>> DATE :: 2005/10/28 Fri