彼はようやく少年に(あかく咲く声)
今更はまりまくっている緑川ゆきさんの「あかく咲く声」より、辛島くんと川口さん。
時間軸からして最終話より1〜2ヶ月後くらいで。
なんかもう川口さんはとにかく辛島×国府の二人をとことん温かい目で見守ってれば良いと思う。
「辛島くんのおかげで、思ったより早く終わったよ」
ありがとうと言うと、狐の面を取った少年はにこりと笑った。
「僕の方こそまた川口さんに助けてもらって。 ありがとうございました」
「いいや。でも上の連中が急に呼び出したりして悪かったね。本当はきみも用があっただろうに」
辛島という少年は、基本的に仕事を断らない。それを知ってか否か、上層部がこうして彼を呼び出すことは決して少なくない。もちろん、誰もが彼のことを心配している。けれど事件の早期解決には変えられないのだ。
‘狐’の声は、強い。
「はい――…でも今回は早く解決したし、大丈夫ですよ」
言いながら、けれど彼の手はさっさと帰る準備をしている。穏やかだけれど少し焦っているようにも見えるその仕草は、彼の用事とやらを容易に推測させた。
「……国府さんかい」
ぴたりと手が止まる。
「図星か。 う〜ん若いっていいねえ」
「……川口さん、そのにやけ顔オッサンくさいッスよ」
呆れたように睨まれても、彼の頬に走った微かなあか色の微笑ましさには変えられない。自然と口元が緩んでくるのは仕方がないというものだ。
「国府さんかー、暫く会ってないなぁ」
「そういや彼女も川口さんと会いたいようなことを言ってたな……」
「へえ、本当に?」
「ハイ。川口さん退院してから一度も会ってないでしょ?こんなに早く仕事復帰して大丈夫なのかなって心配してましたよ」
屈託ないその笑顔はそういえば彼はまだ高校生になったばかりの少年だったのだと、そんな当たり前のことを思い出させる。
それは紛れもなく、彼が悩んで、ようやく手を取った彼女のおかげで。
「よし、じゃあ今日はお祝いに何か三人で美味しいものでも食べにいこう」
「え、やった!……って、何のお祝いです?川口さんの退院祝い?」
「違うよ。君たちがちゃんと付き合い始めたお祝いだ。前回はフイにしちゃったしね」
また少しだけ濃くなった頬のあか色に、一層頬が緩む。
「―――あ、でもせっかくのデートを邪魔するのは良くないか」
「いえ…そんなことは……僕たちはいつでも会えるし」
いつも会ってるし、の間違いだろう。そう言うと肯定も否定もせず、少年は口を尖らせた。
ああ、と思う。
あの日、彼を追いかけてきてくれた彼女に限りない感謝を。
>> DATE :: 2007/01/31 Wed